日本の夏といえば、縁日や盆踊りなどのお祭りですよね。
夏祭り。私には楽しかった思い出しかありません。真夏の夜、無数の照明やちょうちんの光で浮かぶ、たくさんの屋台はどこか幻想的でさえありました。
そんな屋台の食べ物の中でも、ふわふわした雲のような「わたあめ」は特に印象に残っています。甘くて香ばしい匂いが鼻腔をくすぐり、目の前で作られる様子を見るのも楽しかったですね。
この「わたあめ」は「わたがし」と呼ばれることもあります。生まれも育ちも神奈川の私は、今までなんとなく「屋台で売っているのがわたあめ」「駄菓子屋で売っているのがわたがし」というイメージを抱いていました。
同じ食べ物を指しているように思えるふたつの単語ですが、そこに明確な違いはあるのでしょうか?
「わたあめ」と「わたがし」。何が違うのか、どうしてそうした変化が生まれたのか。気になったので、あれこれ調査してきました。その結果をシェアしていきますね。
わたあめとわたがしの違い
ひとまず結論からお伝えしますが、
- このふたつはまったく同じものであり、違うのは呼び方だけである
こうした認識で間違いありません。
でも、これだけで終わりじゃ物足りないですよね。ということで、この結論に至るまでの流れも合わせてご紹介します。
まずは言葉の意味をハッキリさせるため、辞典をチェックすることにしました。コトバンクさんが扱っている「デジタル大辞泉」から、先に「わたがし」を引用しましょうか。
わた‐がし〔‐グワシ〕【綿菓子】
白ざらめを加熱して溶かし、遠心分離機で噴き出させ、糸状になったものを棒に巻き付けた綿状の砂糖菓子。電気飴(でんきあめ)。綿飴。
続けて、「わたあめ」もチェックしてみると…
わた‐あめ【綿×飴】
「綿菓子(わたがし)」に同じ。
このように、まったく同じものとして扱われています。
ちなみにウィキペディアで「わたあめ」と検索してみても、
綿菓子
綿菓子(わたがし)とは、溶融した砂糖をごく細い糸状にしたものを集め、綿状にした菓子である。わたあめ(綿飴)とも呼ばれる。
「わたがし」に転送されて、似たような結果になりました。
まったく同じものを指しているなら、何を基準に呼び方が変わるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
わたあめとわたがしの違いはかなり曖昧だった
詳しく調べたところ、以下のような説があるそうです。
- 関東では「わたあめ」、関西では「わたがし」と呼ばれている
- 静岡県と神奈川県が呼び名の境目になっている
しかし、実際には地域によって呼び方が変わるわけではないと分かりました。
私には京都出身の友人がいるのですが、彼に電話で直接聞いたところ、子供の頃から「わたあめ」という名称で呼んでいるそうです。
また、私の住んでいる横浜では「わたあめ」と呼ぶ人が多いですが、地域によっては「わたがし」と呼ぶ人もいます。屋台でも両方の名前が使われているのを見たことがあります。
よって、関東と関西できっちりと線引きができるものではなさそうですね。
「関東だとわたあめ」「関西だとわたがし」になりやすい傾向はありますが、呼び名が決まる最大の原因は、
- 家族や友人がどちらの名前で呼んでいたか
- お祭りの屋台でどちらの名前が使われていたか
のふたつに集約されます。
どちらの名称が正しいということもありません。
「わたあめ」と呼ぶか「わたがし」と呼ぶかは、完全に個人の好みで決めていいようです。自分が呼びたいほう・好きなほうで呼びましょう。
…ここまでふたつの違いについて解説しましたが、「そもそもなんで呼び方がふたつに分かれたの?」という疑問が残ります。
さらに詳しく調べてみたところ、意外な事実に辿り着きました。
実は「わたあめ」も「わたがし」も正式名称ではなかったのです。
このふたつの違いが生まれた原因について、本当の呼び名について、次の項目で深く掘り下げていきますね。
わたあめは日本生まれじゃない! 発祥地と名前の由来は?
わたあめは日本ではなく、アメリカ合衆国のテネシー州で誕生しました。
1897年(日本では明治30年)に、お菓子の製造業者であるウィリアム・モリソンとジョン・C・ウォートンによって、世界初の電動綿菓子製造機が開発されました。この機械によって作られたわたあめは「Fairy Floss(天使の綿毛)」と呼ばれ、1904年のセントルイス世界博覧会で68655箱も売れたそうです。
「Fairy Floss」の「フロス」は、歯の間を清掃するための細い糸である「デンタルフロス」と同じです。電動綿菓子製造機を考案したウィリアム・モリソンの本職は歯医者であったため、飴を長くして糸のようにしたお菓子ということで、このように名づけられたのでしょう。
アメリカでは今も「Fairy Floss」と呼ばれることはありますが、どちらかというと古い呼び方で、現在では「cotton candy(綿毛のような飴)」と呼ぶのがメジャーです。こちらも可愛い呼び方ですね。
日本で売られるようになったのはいつから?
わたあめが日本に広まったのは、明治時代後半から大正時代にかけての時期です。セントルイス世界博覧会で大人気だったわたあめは、日本でも大ヒットを起こして、瞬く間に全国各地へと広まっていったそうです。製造機械も製作法も単純なことから屋台に導入しやすく、製造時の見た目の楽しさも子供の心を掴んだのでしょうね。
ちなみに当時は「わたあめ」でも「わたがし」でもなく「電気飴」という名前で呼ばれていたそうです。
大正時代の日本において「電気」は最先端の技術であり、自宅に電化製品を置いているだけでも相当なお金持ちと言われるほどでした。多くの人が「電気は革新的で夢のあるもの」という憧れを抱いていたので、アメリカから伝わってきた新しいお菓子の名前に「電気」はピッタリだったのでしょう。
■豆知識
※当時の日本では目新しいものに「電気」をつけることが流行っていたようですね。百年以上の歴史がある浅草の神谷バーでは「電気ブラン」という名のカクテルが今でも販売されています。
そして、昭和になって電化製品が普及するのと同時に、「電気飴」という言葉が使われなくなりました。代わりに本来の名前である「cotton candy」を和訳した「わたあめ」や「わたがし」と呼ばれるようになったのです。
ここで一旦おさらい
ご理解いただけたでしょうか?
わたあめの正式名称は「cotton candy」であり、元々はアメリカで生まれたものだったのです。日本に伝わってからは、名称が時代に合わせて変化し、最終的には「わたあめ」「わたがし」という呼び名が主流になったわけですね。
つまり呼び方がふたつに分かれた理由は、翻訳の違いによるものだったということです。
さて、ここまでは日本とアメリカでの呼び名を見てきました。
しかし、世界にはもっと面白い呼び方をしている国もあるんですよ!
次はその呼び方と由来を紹介します。
わたあめのフランスでの呼び名は?
英語で「cotton candy」と呼ばれているわたあめは、フランス語では「barbe à papa(パパのひげ)」と呼ばれています。フランスの人たちはわたあめを見て、サンタクロースのような白くてふわふわのひげを連想したのでしょう。
1970年代にフランスで生まれた「バーバパパ」という絵本があります。この作品はアメリカ人のタラス・テイラーという作家が、パリのリュクサンブール公園を散歩中、ある子供が両親に「barbe à papa」と話しているのを聞いて思いついたそうです。
アメリカ人のテイラーとフランス人のチゾンの合作で生み出された「バーバパパ」は、世界中で愛されるお化けになりました。アメリカとフランスの「わたあめ」に対する認識の違いがなければ、この世に存在しなかったキャラクターと言えるでしょう。
「バーバパパ」は多くの言語で翻訳され、日本でもアニメ化されました。YouTubeでテーマソングが視聴できるのでご紹介しますね。
土から生まれたバーバパパは、自由自在にどんな形にも姿を変えられます。絵本の中では、車やボートなどの乗り物になって皆を乗せてあげたり、動物や楽器になってみたりと見ていて飽きません。七人の子供たちにもそれぞれ得意なことがあって面白いんですよね。
まとめ
「わたあめ」と「わたがし」は人によって呼び方が異なるだけで、まったく同じものでした。
個人の価値観や表現の仕方によって、好きなほうを自由に使えばいいと思います。「わたあめ」でも「わたがし」でも美味しいことには変わりませんからね(笑)
ちなみに私はやっぱり「わたあめ」で行きます。
「わたあめ」という言葉には、どこか懐かしく、可愛らしい響きがあるからです。特に漢字表記の「綿飴」よりも、ひらがな表記の「わたあめ」のほうが可愛らしく、あの白くてふわふわした外見とマッチしているように感じますね。
同じものでも国・地域・人によって呼び名が変わるあたり、言葉って本当に奥深くて面白いなと思いました。